原作『カウボーイビバップ』の世界観を用いたやる夫系二次創作のWikiです。

売れない芸術家は惨めなもんだ
ギターの弾き語りをしているストリートミュージシャンを見ながらそう自嘲する
部屋の画材は埃を被ってどのくらいになっただろう
実家を飛び出して2年ほど,現実は厳しく芸術一本で食っていくことなど夢のまた夢だ
思考をそこまでにして頭を切り替える,これから仕事なのだ
芸術の仕事ではないが才能があると上司に褒められている
今は食べるためにもそちらに集中だ,自分に言い聞かせて歩を速めた



仕事道具の調達のため,俺は人通りの少ない路地裏に古い『飛虎』と書いてある看板のDVD屋に寄った
いまどきDVDなど利用する客などいるのだろうか,少なくとも俺は見たことが無い

「よう,お前さんか」

カウンターには新聞を広げて読んでる男性が一人,俺を確認すると店の表に『本日営業終了』の札を出し鍵を閉めた

「ご注文の装備はこちらだ」

男,店長はカウンターから品物を取り出して並べた
軍用のコンバットスーツ,ドローン,ナイフ,拳銃,そしてアサルトライフル
ここは表向きはDVD屋だが,裏ではこうして装備の用意などをしている
まずアサルトライフルを確かめる,スイスで使われていたSIG社製のアサルトライフル
折りたたみ可能の携帯性,狙撃もできる精度,アサルトライフルは基本これを使っている
サイレンサーや薬莢回収用の袋も取り付けられていることを確認

「白猫さんが褒めてたよ,ゲオルクは銃の注文が少なくて楽だって」
「褒めてるんですかそれ」

白猫さんとは俺の上司,と言うかボスだ,本名だと本人は主張している

「まぁ先輩方は銃のカスタムこだわりますからね」

無駄話をしながら装備を装着していく,全身が人殺し用の兵器になる
これが今の俺の職業,簡単に言うと駆け出しの殺し屋だ



今日の仕事はヤクザの小規模な拠点の襲撃,敵対組織の体力を削る地味な仕事だ
組織が指定する人間は基本的に悪人だ,方針的な物だと聞いている
俺も悪人は嫌いだし―そもそもこの業界に入ったのは悪人に嵌められたからだ―殺すのに躊躇は要らない
目的の古いビルの近くに車から降ろしてもらう
この時間は人通りが少ないのも確認済み
ドローンを展開し,人に見られないルートで裏口に回る
見張り,監視カメラ共に無し,駆け出しの俺にでも出来る仕事が回ってきているのがわかる
流石に鍵はかかっているが問題は無い,特殊な樹脂が入ったチューブを鍵穴に当て樹脂を流し込んだ
チューブを回すと鍵が開く,原理は知らないが樹脂が鍵穴に対応して固まるように出来ているらしい
中に入りドローンを今度は2台飛ばす,赤外線,超音波,その他もろもろの情報を取得してくれる優れものだ
ドローンからの情報はヘルメットのディスプレイに表示され建物が透けて見える
全標的の場所をおおよそ把握,近い標的の方角へ駆け出す
角を曲がった先に二人,速度は緩めず飛び出す,呆けた顔に弾丸を撃ち込む
サイレンサーを付け銃声は最小限にしている,センサー類に反応無し,まだ気付かれてないな
ボーナスタイムは続行,銃のリロードをして次の標的に向った,楽な仕事になりそうだ



その後
何の問題も無くヤクザは皆殺しになった
仕事が終わり,金を受け取り帰路についている
終わった後は何となく落ち着かない
別に殺したことの罪悪感ではない,そんなものはとっくに納得している
ただ,芸術の道を進めていないことに苛立っているだけだ
現実は上手くは行かない,そんな当たり前のことをここ最近はずっと悩んでいる
才能がある仕事に就くこと,やりたい仕事にしがみつくこと,どっちが幸せかなんて本気で考えてる自分に腹が立つ
途中ストリートミュージシャンを見かける,来る時も見かけた人だ,今までずっと演奏していたのか
なんとなく立ち止まって曲を聴く,悪くない
今日の仕事で手に入れた金を箱に入れる
悩んでも仕方ない,両立のためにまずは努力しよう
帰ったら久しぶりに絵を描く,そこから再スタートだ


そしていくらかの時が経ち,ゲオルク・ヘルツルは賞金稼ぎ兼芸術家となる

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