原作『カウボーイビバップ』の世界観を用いたやる夫系二次創作のWikiです。

地球、月の崩壊により地上においては生存不可能になった星。
だが人は地下のシェルターに生活の場所を移し生きていた。

とあるシェルターにて一人の少年が黙々と黙々と働いていた。
拾ったゴーグルを掛けて、深夜の荷物配達の仕事に勤しんでいた。

「………………」

無口に早くポストに入れて自転車を走らせる、まだ運ぶ荷物は多い。
今回は珍しいことに多めの荷物運びの仕事を請け負えた、いつもと比べれば報酬は多めだ
その報酬の使い道を考えつつ荷物運びを続ける

「………………ふぅ」

荷物を運ぶ自転車を一旦止めて息を吐く。
ある程度減ったとはいえ、やはり荷物は多い、深夜に始めたがもう明朝だ。
投影された太陽が彼の目に焼き付く。
その太陽を目に焼き付けながら彼は自転車を漕ぎつつ過去のことを思い出していた。



過去、彼――マレット・パピレンツが生誕した地は東欧は欧亜戦争の真っただ中にあった。
長い長い戦争、いつ発生したのかも分からない戦争はさらに混迷を極めていた時期だ。
その中でマレットは物心つく前から少年兵として戦場にいた、
東欧は前線地帯であった、それ故に親が死に孤児となる者が多くいた、それに軍は目を付けた。
当時のどちらの陣営の軍も兵士が不足し始めていたのだ、そこで兵士の補充の一環として少年兵の投入が決定された。
そして当時戦災孤児となっていたマレットもまた軍に拾われ少年兵として戦場にいたのだ。

「……………ッ!」

砲撃の音が響き渡る、マレットはその音に身を固くした。
少年兵として長く戦場を生き抜いてきた身としてもやはり慣れない物だった。
未だ砲撃の雨はやまない、相手の物量は中々に凄まじい物だ。

「や、やべぇよ、どれだけの砲弾持ってるんだよ」
「ココも大丈夫なのか?」

自分と同じ少年兵たちが不安を口々に言うがその声は上司には聞こえていない。
砲弾の音が高すぎるためだ、だがこの喋り声も戦場に突っ込めば自然と無くなる余計なことを考えられなくなるからだ、
マレットは手に持っている銃を握り直して、砲撃がやむのを待った。
そして、しばらくして砲撃は止み、敵の戦車が見えてきた。

「戦車を確認した、急いで対戦車兵装もってこい」

マレットがそう指示すれば、自分の指揮下の兵士達が急いで動き出す、
それを見ながらマレットは敵の観察を続ける。
随伴歩兵たちと共に来る戦車はある程度ゆっくりと来ておりこちらに着くまではある程度余裕があった。

「隊長!持ってきました」
「よし、俺が合図したら敵戦車を撃てそれと同時に随伴歩兵にも攻撃しろ」

手早く指示を出す、そうすれば再び指揮下にある兵士達が慌ただしく動き配置につく。
そして、配置に着いたのを確認してマレットは敵の部隊の距離を測る。
もう少し、もう少し距離が迫るのを待つ、じっくりと焦らずに。
指揮下の兵士達は迫りくる戦車に恐怖を感じているがそれでも焦らず適正距離に敵が近づく、号令を出す。

「――撃て!」

対戦車兵装が火を噴いて敵の戦車に吸い込まれるように直撃する、敵の戦車が爆発した。
その爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる兵士が数人、それ以外は混乱しつつも体勢を立て直そうとするが、

「撃て!」

塹壕内で銃を構えていた兵士達の射撃により次々と仕留められていく、マレットも銃を撃つ。
次々と敵兵が死んでいく、体制も立て直せずに次々と次々と、だが今更そんなことに感傷は抱かなかった。
何分撃っただろうか、銃撃が自然と止めば後に残ったのは敵兵の死体だけだった。

「…………何とか生き残れたか」

そのように口に出す、しかし次の敵が来るかもしれず兵士達は気を抜かない。
その時無線から連絡が来た。

『退却せよ、繰り返す退却せよ』

恐らくどこかの戦線が突破されたのだろう、そのように結論づけて直ぐにマレットは指示を飛ばす、
その指示を受けて兵士達が慌ただしく動き出す、出来る限り早く撤退するために。
マレットもまた撤退を早くするため、準備に加わった。



市外線に突入した戦場にてマレットは戦っていた。

「ハァ、ハァ、ハァ、クッ」

マレットは一人走り、時には身を隠せる場所に身を隠しながら動く。
今マレットは一人だ、指揮下にいた兵士達と逸れてしまったから、
アレは全くの不運が重なった結果だった。

「ク……ソ……」

もはや余裕も何もない、ただ生残ることと部隊と合流することに精いっぱいだ。
だから走る、走る。

「敵だ!」
「ッ!?」

敵兵の叫び声に反応し近くにあった遮蔽物の下に隠れる、その直後銃撃が飛んできた、
危なかった、一瞬遅ければハチの巣になっていただろう。

「チィッ!」

敵の銃撃の中でもマレットはやり返す、顔は出さず銃を敵に向けてフルオートで射撃する、
その射撃に敵もまた物陰に隠れた。

「ハァ、ハァ、クソッ」

先程から悪態ばかりを吐き出しつつ、呼吸を整えようとする、
だがすぐに敵からの銃撃が飛んでくる、膠着状態だ。
この状況をどう脱するか、そして部隊に合流するかを必死に必死に考える。

「……………ハァ」

一つ決意を固めて、残っていた手榴弾に手を付ける。
そして、少し敵を覗いて距離を測り、手榴弾を投げつける。

「なっ」

敵はそれを見て急いで手榴弾から離れるため走っていく、それと同時にマレットも走り出す。
後ろで手榴弾が爆発する音が聞こえ、敵兵士達が戻ってくるがそれすら無視して駆ける。

「………無事で」

そう祈るようにぼそりと呟くしかし、
ズドンと一つの銃声が響き、その銃弾がマレットの腹に着弾する。

「グ、ゥ」

だが、それに負けじと急転換し一瞬で撃ってきた敵に銃弾を放てば、敵兵は悲鳴を上げて倒れ伏した。
だがそれと同時にマレットも体を落とす。
撃たれた傷は深かった。

「………クソ、終わりか」

そう予感した、しかしだからと言ってそれが諦める理由にはならない、
近くにあった手頃な隠れる場所に入り、敵が来ているか確認して応急処置をしようとする。
だが、体が思うように動かなかった。

「あ……う……」

意識が朦朧とする、自分の死を彼は自然と確信した。
この世に生まれてろくな思い出もなかったが、部隊の仲間は別だせめて生き延びてほしいと思った。
だが、世は分からないもので一人、何者かがこちらに近づいてくる、敵かと思ったが体が動かない。

「ちょ………き…!……てあ…………!!」

意識が朦朧としたマレットが最後に見たのは一人の女がこちらに慌てて近づいてくる様子だった。
どんな容姿かも確認できずにマレットは意識を落とした。



次に目覚めたのは野戦病院だ、その中でマレットはベッドに寝かされていた。
生残ったのかと病院の中を見渡す。

「……………いないか」

ついでに自分の部隊に所属している兵士を探したが、今は見つけられなかった、
そして再び天井を見上げる、このまま何もなく後方に運ばれるのかと思いながら。

「――あっ、起きたんだねー」

そう言って近づいてくる一人の女性。
マレットが戦場で最後に見た姿と似ている。

「…………貴方は?」
「ああ、私はね、欧州側に雇われてる傭兵さ、通り名は白い煌きって呼ばれてるね」

マレットにもその名は聞いたことがある、その存在がまさか自分を助けるとは思わなかったが。
運という物は分からないなと思った。

「……………そう言えば聞いておきたいことが」
「ん?、なに?」
「……………433小隊について何か知っていないか?」
「んー……ごめん、戦場も大分混沌としているからその小隊の動向とかは聞いてないね」
「…………そうか」

やはり聞いてもわからないかと、思って天井を見る、
無事であればいいと、そう思いながら。

「さて、私はそろそろ行かなきゃ、まだやることやってないしね」
「……………頑張って」
「ありがと、それじゃ縁があればまた会えると良いねー」

そう言って彼女は出て行った、それを見送った後にマレットは目をつむり、意識を手放した。



それから戦場はあるが欧州側が辛勝と言う形で敵を追い出すことに成功した。
そしてこの勝利を持って欧州側が亜細亜側に休戦を提案、亜細亜側も消耗が激しくその休戦を承諾した。
戦争は一時的にではあるが終わりを告げたのである。
そしてマレットは――

「……………………」

一人、部屋から必要なだけの手荷物をまとめていた。
戦争が終わり、少年兵たちにも選択肢が与えられた、即ちこのまま軍に残るか市井の市民になるか。
市民になる場合は政府が仕事を用意されている、その仕事に就くかどうかは自由だ市井に下る大半の者はその仕事に就くだろう。
マレットはその中で市井に下ることを選択した、軍に残ろうとは思わなかった。

「……………」

一つの写真を取り出す、もう見ることはできない戦友たち。
あの戦場で、全員が戦死と確認された、その時の悲しみはとても大きかった。

「……………行くか」

そして写真をバッグに入れて部屋から出る、
しかし、今のマレットには行く当てがないどうしようかと悩みながら歩き、
外に出れば――白い煌きと目があった。

「……………なぜここに」
「偶然だよ、偶然」

そう言って笑って近づいてくる彼女、
その笑顔を少しだけ苦手に感じた。

「ふーん、君は市井に下る選択をしたんだねー」
「…………ああ」

マレットと彼女の二人は出口まで歩くことになった。
その際、彼女の提案でこれからどうするのかを話すことになった、最初に話すのは白い煌きから、
彼女こと、白い煌きはこの戦争が休戦したため一度中欧に帰ることにしたらしい。

「しかし、仕事にも就かずにいるってことはどこか行く当てでもあるの?」
「…………ない」
「えっ」

彼女が驚いた顔をした。

「……それって大丈夫なの?」
「…………さあな」
「さあなって、うーんこの」

彼女が困ったような顔をする、それから何か考える。
マレットは途中から前に顔を向けていたため見ていなかった。

「そうだ、君、私の家に来ない?」
「…………はっ?」

マレットが珍しく驚き顔を作り彼女を見た、
その彼女は笑っていた。

「……………貴方にメリットなんてないぞ」
「んー、そうだけどなんだか見捨てられなくてね……それでどうする?」

答えを早く聞きたいという顔をしていた、
マレットは少し思案する、確かに行く当てはなくこのままでは飢え死にする可能性が高いだろう、
だが、彼女を今だに信用しきれなかった、ほぼ初対面であるからだ。

「……………」

ちらりと彼女を見る、それに気づいた彼女は笑顔を作って見せた、
その笑顔にマレットは、何故だか悪い予感はしなかった。

「……………世話になる」
「OK、なら早速行こうか今日の便はもう調べてあるからね」
「……………ああ」

そう、これが二人の長くけれど短い同居生活の始まり、
マレットが地球から旅立つまでの普通の日常を過ごした大切で尊い時間だった。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます