原作『カウボーイビバップ』の世界観を用いたやる夫系二次創作のWikiです。

知らぬが仏。世間知らずの高枕。知らぬが故に人は自分を幸福だと信じて生きていく。
されど無知こそ確固たる罪であろう。



あっしの話が聞きたいって?
後悔すると思いますがねぇ。これから話すのはあまり愉快なお話じゃあありやせんよ。
──それでもいいと。それならゆっくり話やしょうか。つまらない自分語りってやつをね



あたしゃ、昔は軍に所属しておりやしてね。16から19までお星のために宇宙のために無辜の人々のためにと毎日任務をこなす日々を過ごしてやした。
上官には怒鳴られ、失敗も幾度もしやした。けれど確かにあたしは皆を護っているのだという誇りを抱いて胸を張って生きていやしたよ。

軍に入って一年を過ぎた頃でありやしょうか。同期の中でも運転技術は1番だったというのもあってあたしはその時、小惑星地帯付近のパトロールを任されておりやした。
…………ある日のことだ。あたしを含めて三人がとある上官の元に集められやしてね。ある極秘任務を言い渡されやした。

その任務ってのは小惑星地帯で生きるしかなかった無辜の人々を船に乗せエンケラドゥスにまで連れて行く支援をすることでございやした。
ようは移民の手伝いをしろって話だったんでさ。そうあたしらは判断しやしたよ。
いくつか不可解な点もありやしたがね、指示を出した上官ってのはあたしらに大層良くしてくれたお人でね。その頃はまだ短い付き合いでありやしたがあたしらは信頼してたんでさ。
だから、この時も何の迷いもなくその指示に従いやしたよ。胸を張って任せてくだせぇ。なんて言っちまってね。
何せ無法の地で苦しんでいるであろう人々を少しでも救い出せるチャンスだなんて……
今となっちゃあ柄に合わねぇ正義感をあの時出しちまったのさ。

半年に一度、あたし達は100人もの移民希望者を運びやした。
木星と土星の間で待機しているあちらさんの船に彼らを渡すまで彼らと色々お話ししたものだ。
この先の明るい未来や夢について語り合い、励まし、いつかの再会を約束しあいやしたわ。
それを何度も何度も繰り返してね。
あの頃のあたしはそのことが……あの愉快な時間を過ごすことが楽しくって仕方がなかった。



……この後の話も聞く覚悟はおありで?あたしはオススメしやせんぜ。
いいから話せ?
どうしてもk……ああ、はいはい。分かりやした。分かりやしたからその手に持ったもんは置いてくだせぇ。
そんなもん使われちまったらポックリとイッちまいそうだ。



そうこうした日々を過ごしておりやしたらあっという間にあたしは19になっていやがった。
その頃には運んだ人も400人程になっていてね。
この歳になって初めて、移民の手伝いをしておりやした3人共が同時に三連休を取ることができやしてね。
……丁度いいから移民した彼らを訪ねようってことになったのさ。

────結果からいいやすとね。彼らと会うことは出来やせんでしたよ。

土産も持ってサプライズだどうのいって3人で騒ぎながら船に乗ってエンケラドゥスに行きやしたよ。
そして彼らが住むということになっていた場所に向かったんですがね……そこはただの森。人の気配なんざ微塵もしない。
これはどういうことだと政府に確認を取りやしたが移住者記録に彼らは載ってはいやせんでした。
何度も何度も確認を取ってもらいやしたがね…結果は変わるこたぁありやせん。

こうしてあたしらは困惑と不安につつまれた1日目を過ごしやした。

次の日、朝早くからあたしらは星中を駆け回って彼らを探して回りやしたよ。
日が暮れ始めた頃だ。1人……たった1人だけだが出会えたんでさ。
彼らがどうなったのか、どこに連れていかれていたのか知っている人に出会っちまったんだ。

「まさかまさかま〜さかぁ、『消耗品』の提供をしてくださってる方々とこ〜んなところで出会えるなんて思いもしませんでしたよ。
いつも世話になっている。ありがと〜うございます。次回も頼むね」
                    ヒ ト
「うん?『消耗品』といったらアレだよ。実験動物にきまっているじゃぁないか。
もし良ければこれから一緒に食事でもどうです?いい店知っているんですよ」

今思い出しても吐き気がしやがるってもんだ。
ここになってやっとあたしは気づいたんでさ。
あたしらのしていたことは救いでもなんでもねぇクソッタレな人攫いだったってな。

だが、だ。あたしらはその誘いに乗りやしたよ。彼の話を詳しく聞きたかったんでさ。
もしかしたらの希望があるかもと信じてね。

食事の間、彼は全部話してくれやしたよ。
彼らのうちの9割以上はすでに消費して使いものにならなくなってしまっただとか、提供の御礼金はあたしらに指示を出した上官の懐に全部入っているやらどういったことに使ったのかを………全部だ。

豪華な食事ではありやしたが味を楽しむなんざ出来やしなかった。
彼と別れてからは3人とも吐きやしたよ。胃の中身だけでなく淀みを全て吐き出すかのように盛大に吐きやした。

自信ありげに胸を張れていたあたしの誇りはまやかしで、彼らとの楽しき記憶が最悪の記憶になった。そんな2日目でございやした。

そんで休み3日目にあたしらは何も喋ることなく黙って軍に戻ったのさ。



あたしともう1人は軍に戻っても立ち直ることは出来なくってね。残った1人だけ上官の元に質問と糾弾にしに行きやしたよ。
何を話していたのかはあたしは知りやせんがね……その上官は彼に殺され、彼も上官殺しの罪でその場で射殺されやした。
上官と彼の死後、上官の犯した悪事が上層の人間にまで伝わりやしてね、あたしらも罰を受けれる。そう思っていたんでさ。
だがそんなことにはなりやせんでしたよ。軍のメンツが潰れるのを嫌って全部無かったことにしちまいやがったのさ。
無法地帯に生きる人の人数なんざわかっちゃあいねぇからな。数年のうちに数百人消えよーがばれないって踏んだのさ。
だからもみ消された。あたしらの罪ごと全て消されちまったのさ。
そんで裁かれなかったあたしとは別の奴はあたしが軍を去る少し前に自殺したんでさ。てめえの罪に耐えきれなくなっちまって死んじまったのさ。
だがまぁそれも事故というふうに処理されちまって忘れ去られちまったようでありやすがね。

そうしてあたしは軍を去りしばらく友人の元で世話になった後で運び屋を始めたのさ。

だがね、今でもあたしゃあ述べ400人を地獄へ導いた大罪人。死に逃げることも義憤のまま暴れることも出来やしなかったクソッタレだ。
騙されていたじゃあすまされねぇ。知らなかったじゃあゆるされるわけがねぇんだ。
これはあたしが永遠に抱き続けなきゃならねぇ業なのさ。

昔語りはこれで終いだ。あっしはもう帰るとしやしょう。
ああそうだ、この話は誰にもいうんじゃあありやせんよ。




捨てやしやせん。軽くなんざもできやしやせん。
あたしだけは覚えていやしょう。誰も背負わずにいたその十字架をあたしだけが全部背負って歩きやしょう。
それがあたしのできるたった一つの贖罪だ。



だが叶うのならば、誰か……あたしを───
サイドストーリー〔裁かれなかった彼の罪〕クリア。
エイラ・アップルゲイトのマテリアルが更新されました。

このページへのコメント

生きてんなら死刑執行される運命じゃなかったってことだ
この事件に関わった全員の心がこの運命と結末を作ったなら仕方ねえ
仕方ねえが断頭台としては断頭台に着けない死刑囚は哀れだと感じるぜ

0
Posted by クォート・アルセイフ 2017年01月30日(月) 02:12:00 返信

 酷な、然し世には尽きぬ話ね。
本人が背負う事を決めたならば是非もなし。
彼が潰れず、立ち続けられる事を。

0
Posted by フューネ・セプティノス 2017年01月30日(月) 01:54:03 返信

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