原作『カウボーイビバップ』の世界観を用いたやる夫系二次創作のWikiです。

「ああ、スーカラ先生かい!あの人はいい人だよ。
ほれ、そこの俺のかみさんも先生に施術してもらってな。お陰で今日も右足の調子は・・・」
『何時まで引き止めてんだいあんた!フューネさんが診察の予約に遅れたらどうするってのさ。』
「わかったよかあちゃん。ああフューネさん。先生の所に行くんなら、之を持ってってくれるかい?
良い地球産の野菜が入ったんだ。先生にも食って欲しくてさ。」

 構いませんよ、とごろごろと野菜の入った紙袋を受け取り、雑談を切り上げる。
この八百屋さんには無花果をおまけして貰ったり、色々と世話になっているのだし、
此位ならば何でも無い。

 さて、スーカラ・マッダヴァ・・・私/フューネ・セプティノスが之からサイバネのメンテナンスを頼む技師は、どうにも良い仕事をして地元の人からも好かれているらしい。
念のため時間に余裕を持って出た所、近くに贔屓の店が有ったので軽く雑談をして時間を合わせよう。位に考えたのが御土産迄出来るとは嬉しい予想外だ。
とは言っても予約に遅れては大問題。丁度良いタイミングで飛んできた女将さんの言葉に甘えて医院へと再び歩き出す。

 軽く手を振りながら見た女将さんの右足は、まるで生身の様に自然な動きをしていた。



 程なく着いたボロボロのビル、その二階にある「マッダヴァ医院サイボーグ研究所」こここそが彼女の城。中々に少々威圧感の有る診療所ではあるが、意を決して足を踏み入れ声をかける。

『御免下さいスーカラさん。
予約していたフューネです。』
『いらっしゃいセプティノスさん。準備は出来ているわよ。
貴方のサイバネ・・・海馬と、其処から指先にかけての人工神経のメンテナンスで良いのね?』
『ええ。宜しくお願いしますわ、スーカラさん。』

 直ぐに帰ってきたのはスーカラさんの声。
ほっとしながらも紙袋をかくかくしかじかと渡し、早々に施術の話に入る。
私/フューネ・セプティノスが”賞金稼ぎ/記憶屋”として仕事をする為に必要なサイバネの定期メンテナンス。
前の技師が何処ぞでヘマをして”引っ越し”してしまい、頼む技師に困っていた所で見つけたのがスーカラさん。同じ酒場、マルス・ロマンスを溜まり場とする賞金稼ぎであったという訳だ。

『・・・はい。大丈夫ですね。では、麻酔を使ったら施術に入りますので・・・』
 問診や確認、如何なるメンテナンスを行うかの確認を終え、施術台に横たわる。
 黒手袋と上半身の服を脱いだ後とは言え、きちんと暖房も効いていて寒くはない。
スーカラさんから麻酔を受け、少しずつ意識を手放していく。
・・・そして夢を見る。施術の度に見る、昔日の夢を。



「フューネ、銃はお前の命を守るための物だ。
他の誰よりも、お前の命を。・・・だから躊躇うな。」

軍人だった父の夢。
今思えば大分物騒で、子供に言うことじゃあないと思う。
でも、停戦中とは言え緊張状態が残っていたタイタンに生きる私には必要だと思っていたのだろう。
難しい事は分からなくても、私を心配してくれている事だけは伝わっていて、父との銃の訓練は大切な時間だった。
一寸不器用で、何時もコーヒーを飲んでいた父。
真似して飲んで涙目になった私に作ってくれたカフェオレの味を今も覚えている。


『あらフューネ、無花果の実を採ってきてくれたのね。
じゃあ、一緒にタルトを作りましょうか。』

主婦だった母の夢。
庭にあった無花果の木は私が生まれた年に植えた物だそうで、その水遣りは私の仕事だった。
・・・思い返せば世話が其れだけで済むものではなく、大半は母がやっていたのだろうけど。
母と庭のお世話をする時間、母と作った無花果のタルトの味。どちらも今も覚えている。

 家族三人の”充実した人生”(サニー・サイド・アップ)。
それは忘れられない思い出で、私が覚えていないのは唯一つ、幸せが終わった時のこと。



 「私が分かりますかミス・フューネ。
担当医のモスです。貴女は賞金首の爆破テロに遭い重症を負いました。
ですが幸い、殆どの部分は再生医療で問題なく治りますし、損傷した脳部位も緊急治療として置換したサイバネによって十全の機能を発揮します。」

 いつもの様に両親にお休みを言い、眠ったはずなのに、気がつけば病院で、お医者さんからの説明を受けていた。
 父は訓練中の事故で死んだ”らしい”
 母はその訃報で注意力が散漫であったせいか、交通事故で死んだ”らしい”
 両親の死に嘆きながらも、私は泣いて泣いて泣いた後に、ちゃんと葬儀で別れを告げた”らしい”

 そして、私は学校で爆弾テロに遭い、重症を負うも無事治療を受けたのだと。
 脳の損傷はほんの一部、一時記憶を司る海馬のみ。その機能もサイバネによって補われた。
 ・・・欠けたのは唯一つ”最近の記憶”、両親の死と受容の記憶。
心は既に別れに納得し、受け入れた儘で。

 『私は其れに意味を求めた。
”幸せな記憶”しか残っていない事に。悲嘆と別れの記憶を失った事に。
サイバネ化した海馬故に選べる道、記憶屋を選ぶ事で。』

・・・結局、今日も別れと嘆きの夢だけは見なかった。



『お早うございますセプティノスさん。
メンテナンスは無事に終わりましたので、確認をお願いします。』
『・・・ありがとうスーカラさん。ええ。気分は快調。
そして・・・情報の伝達もスムーズね。問題無いと思うわ。』
『では、その包帯は5時間ほど付けたままで居て下さいね。
それできちんと皮膚も定着しますから。
ああ、もし違和感が出てきたら直ぐに来てくださいね。』

 目が覚める。時計を見ると思ったより針が進んでいない。
スーカラさんの手際がそれだけ見事だった、という事だろう。
促されるままに持ち込んだPCを使用し、サイバネの機能/接続口の指先/ケーブルを兼ねる腕の神経/情報の出し入れを行う脳サイバネーーーの調子を確認する。何れも良好。
 幾つかの注意事項を受け、服を着直し、施術費を支払い(思っていたより随分良心的な値段だった)、スーカラさんに別れを告げて医院を出た。
 本当に良い仕事。これからはメンテナンスを任せられるわね、とホッとしながら。


『さあ、気分もすっきりしたし、
張り切って今日の仕事を始めましょうか。』
彼女/フューネ・セプティノス/記憶屋/賞金稼ぎは今日も仕事を熟していく。
懐かしい、稼業を選んだ切欠を思いだすのも、存外悪く無い気分だと笑って。

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