原作『カウボーイビバップ』の世界観を用いたやる夫系二次創作のWikiです。

『グッドルーザー』

おっと、そこの道行く少年少女。
君達はカフカ・マトイという男のことを知ってるかい?
知っているならご愁傷さま、知らないなら関わりあいにならないことをオススメするよ。
何故かって?そうだね、じゃあ某殺人鬼の同僚みたいに簡単に解説してあげよう。

やめとけ!やめとけ!
あいつは頭がおかしいんだ!
「一緒に仕事しようぜ」って誘ってもヘラヘラして楽しいんだか楽しくないんだか…
『カフカ・マトイ』23歳 独身
仕事は不真面目で時間をかけるし情熱なんて微塵もない男…
なんか落ちこぼれっぽい気品ただよう顔と物腰をしているため女にも一切モテないし
受ける依頼も雑用とか使いっ走りばかりさせられているんだぜ
悪いやつだしイカレてる、気持ちわるい男さ

どうだい?彼のことがよくわかっただろう。
え、わからない?おいおい、せっかく人が懇切丁寧に説明してあげてるのに。
まあ、僕は彼と違って優しいから、分からないというのなら分かるまで説明してあげよう。
これから話すのは、彼が関わった一つの依頼の話。

彼が台無しにした、とある家庭のお話さ。



「『つまり、奥さんの素行調査ってこと?』」

ここはとあるカフェのとある一室。人に聞かれたくない話や、賞金稼ぎ達の依頼の詳しい話を詰める際に使われる部屋である。

「ああ。最近こそこそと何かをしているのでな。その調査を貴様に頼みたい」

そこに対面して座る二人の男。方や大柄でいかにも金を持っている臭いを漂わせている男、方や学ランのようなものを羽織った青年。

「『なるほど!まあ、僕に任せてくれれば問題ないよ。奥さんのこと、洗いざらい全部調べてあげるよ』」
「『この僕、カフカ・マトイがね』」
「『ところで、報酬の話だけど』」

お金の話を切り出すと、対面の男は顔を歪めながら言った。

「達成できたら多少色をつけてやる。わかったらさっさと行け、私も暇じゃないんだ」

カフカはその言葉を聞き満足げに頷くと

「『おっけー。お金が貰えるなら異論はないぜ』」
「『じゃ、調査が終わり次第連絡するぜ』」

そう不敵に笑い彼は部屋をあとにした。
そして、部屋に残された男は

「ふん、金に集る虫め。あんなやつに依頼しないといけないとは。全く、昔から手間を取らせる!」
「私の妻に不貞の疑いがあるなど、冗談ではない!それに、私自身のこともあるしな・・・」

そう、苛ただしげに吐き捨てるのであった。


1週間後

「・・・・・・これはどういうことだ!」

先日話をした部屋に再び呼び出された男が怒声をあげる。
何故かその部屋には彼の妻がいて、そして、その手にしているのは・・・

『あなた・・・』

彼の素行調査報告書、であった。

「どういうことだ!私は貴様にこんなことを依頼した覚えはないぞ!」
「私が依頼したのは!妻の素行調査だったはずだ!!」

怒りで頭に血が上っているせいか堂々と妻を疑っていた、と告げる男。
それに対し、

「『これは別の依頼主から頼まれた依頼さ。君からじゃなく、ね』」

一切悪びれることなく、やれやれと息を吐きながらカフカは言う。

「別の依頼主?まさか、お前が!」

『違う!私はそんなことなんて頼んでない!あなたこそ、なんでこんな!』

「うるさいうるさい!元はと言えばお前が!こそこそと庭師の男と隠れて何かをしているから!」

『・・・っ!あなただって知らない女とこんなに親密そうにしてるじゃない!』

疑念が疑念を呼ぶ。
長年連れ添った夫婦とは思えないほどに、互いに怒りをぶつけ合う。
それはまるで、今まで水を溜め込んできたダムが堰を切って水を放出するかのよう。

「これは仕事の付き合いだ!私にだってお前に話せないことの一つや二つある!」

『それは私にだってあるわよ!あなたはいっつもそう!自分のことばっかり!』

「それはお前もだろう!!」

「『はいはいストーップ。そこまでにしときなよ、僕にも話をさせてくれない?』」

カフカが止めに入ると、二人は互いを、そしてカフカを睨みつけるようにしながら息を整える。

「『旦那さんの素行調査のお願いをしたのは彼女の言うとおり奥さんじゃないよ』」
「『それを依頼したのは君たちの娘さ』」

その言葉に、夫婦は目を見開く。

「私たちの・・・」
『娘・・・?』

「『そう、可愛い子だよね。ちっちゃい女の子がさ、パパとママが最近仲悪いからなんとかしてくださいって』」
「『だから僕は、こう言ってあげたんだ』」
「『君のご両親はすっげぇ仲悪いから、そのことを証明してあげるよ!って』」

ヘラヘラと笑い、話を続ける。

「『結果、証明できた。お互いにお互いを疑い会い、よく見りゃ分かる杜撰な報告書に何の疑念も持たない』」
「『君らほんっとに馬鹿丸出しだよね!』」

煽るようにそう告げると、二人の顔がころころと色を変える。
怒りなのか、絶望なのか、悲しみなのか。それはカフカにとって重要ではないし、何より興味が無い。

「『そして、スペシャルゲストの娘さんでーす!』」パチン

指を鳴らすと、部屋の奥から縄で縛られ猿轡を噛んだ彼らの娘がふらふらと歩いてくる。
その瞳に涙を浮かべている、その理由は恐怖からか、それとも信じたくなかった両親の不仲故か。

「貴様ぁ!」

「『おいおい、突然大きな声を上げるなよ。手元が狂ってこの娘に怪我を負わせちゃうかもしれないだろ?』」

そんな娘の姿を見た男はカフカに向かい激昂し声を上げる。
その隣で妻も口に手を当て静かに震えている。

「『で、分かったかい?君の御両親の仲の悪さ。悲しいけど、これが現実さ』」

そう言いながら、今にも泣きそうな女の子に追撃をかける。

「『それで、報酬の話なんだけど、僕は優しいから1,000万ウーロンでいいよ。』」

その言葉にこの場にいた全員が絶句する。
この男は、なんの悪意もなく、良心の呵責もなく、なんてことがないように言い放ったのである。

「『おいおい、嫌々と首を振られたら困るぜ?僕だって慈善事業してるわけじゃぁないんだ』」
「『払えないってんなら、そうだ!御両親に責任を取ってもらおう!』」

そう言うとナイフのようなものを構え、夫婦の方に近づいていく。

「『ほら、払ってくれるよね?」』
『「だって娘が悪いことをしたら代わりに謝るのが親ってもんだろ?』」
『「まあ、僕は両親の顔なんて知らないんだけどさ。」』
『「払ってよ、さもないと』」
「『───ここで皆殺すぜ?』」

「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

カフカの言葉と同時に男がその肩に掴みかかろうとする、が

「『甘ぇよ』」ドゴォ

ひらりと身をかわすと腹に蹴りを放つ。

「げふぉ!!!?」

『あなた!?』
『んーー!!』

その姿を見て、女と娘から悲鳴があがる。

「『やれやれ、困ったなぁ。なんで払ってくれないんだろう』」
「『僕って平和主義者だから出来るだけ穏便に済ませたいのになぁ』」
「『まあ、払ってくれないなら仕方ない!』」
「『こっちの2人になんとかしてもらうしかないか』」グリン

下卑た笑みを顔に貼り付け、恐怖に怯える女とその娘の方に歩を進める。
が、

「ふざ、けるな・・・!妻と娘には手を出させんぞ・・・!」ガシッ

男は腹を蹴られた痛みに耐えながら、それでも声を捻り出しカフカの足を掴む。

「『・・・・・・おいおい、今更正義漢ぶってどうするんだい』」
「『さっきまで凄いダメな父親感醸し出してたのに今更キャラチェン?』」
「『今日日少年漫画でも見ない身代わりの早さだぜ』」

それを、ヘラヘラ笑いながらも何の感情も感じさせない目で見下ろす。

「黙れ・・・!なんと言われようと、二人への手出しは許さん・・・!!絶対に許さガァ!?」

「『ふーん、あっそ』」グリグリ

そんな男のささやかな抵抗すら、腕を踏み潰すことで無かったことにする。
何度も、何度も、執拗に。

「『別にお涙頂戴なんていらないんだよ』」ゲシ
「『僕はさ、ちゃんとした決まりの話をしてるの』」ゲシ
「『依頼をされて、達成したら報酬を貰う。それが決まりでしょ?』」ゲシ
「『なんでそれがわかんないのかなぁ』」ゲシ

「ぐっぅ・・・!!」

男は苦痛に顔を歪め、それでも掴むことをやめない。
そして、止めとばかりに足をあげ、踏みつけようとする、が

『も、もうやめてください!』

「『・・・・・・』」ピタッ

幼い、それでも凛とした女の声がそれを制止する。
猿轡から開放された、彼らの娘の声だ。

『ごめんなさい!私が、私が、悪いんです!だからパパを虐めないで!』
『お金は、絶対に払いますから!だから!』

「『そうさ、僕は悪くない』」

瞳に涙を浮かべ、恐怖に震え、それでも必死に懇願する。

『わ、私も!必ず払いますから!夫を、娘を許してください!』

「『おいおい、これじゃ僕が悪者みたいじゃないか』」

それに続くように女もまた、頭を必死に下げる。小綺麗な洋服が汚れるのも気にせずに。

「貴様・・・!絶対に、二人に手を出したら許さんからな・・・!殺されたとしても、永劫呪ってやる・・・!!」

「『あ、君はいいや』」ゲシ

「ぐふっ!?」

男の手を踏み抜き、足で身体を横にどかす。
深いため息をつきながら

「『やれやれ、女の子の涙に弱いのが僕の悪い癖だぜ』」

そう言うと、倒れてる男の懐をゴソゴソと漁り

「『じゃあ、このライターをあの娘からの報酬代わりに貰ってくから』」
「『お金とかいいや、白けたし。君から貰うはずだった報酬もなしにしてあげるよ』」

貰ったライターを懐に入れると踵を返す。

「『なにかお困りの際はまた声かけてね』」
「『と、いうわけでお相手はカフカ・マトイ君でした』」
「『それじゃ、また明日とか』」

そう言いながら、部屋を後にする。
残された部屋の中では男に心配そうに駆け寄る娘と、その妻の姿があった。



その後、路地裏でタバコを吸いながら一人物思いにふける。

“『パパとママを昔みたいに仲良しに戻したいんです!お願いします!』”
彼の頭をよぎるのは涙で顔をぐしゃぐしゃにして頼み込む、女の子の姿。
その涙を見たら、この男は動かずにはいられなかった。

「『・・・・・・やれやれ、また勝てなかった』」
「『今月は赤字かなー』」

そう言うとタバコの火を踏み消し、その場を後にする。

こうして、彼は今日も仕事を探す。
いつしか呼ばれ始めたその名前は、『グッドルーザー』。
良き敗北者であれ、という彼の渾名であった。



と、いう話さ。
え?その後件の家族がどうなったのかって?
さあ?それは僕にもわからない。
結局家庭崩壊したのかもしれないし、それともより一層仲良くなったのかもしれない。
もしかしたら奥さんがほんとに浮気してたのかもしれないし、旦那さんが実は潔白だったのかもしれない。
彼らの娘が何かしらの糸を引いていた可能性もある。
まあ、形はどうあれ、彼は一つの家庭を台無しにしたのさ。

不器用で馬鹿でかっこつけた男。
それが、『グッドルーザー』カフカ・マトイ。
君も、彼と関わりあいになる時は気をつけた方がいいぜ?
さて、彼についての講義はここまでにしておこうか!

ん?僕が誰かって?
そうだね、僕のことは親しみを込めて■■■さんと呼びなさい。
それじゃ、機会があればまた会おう。

このページへのコメント

 これは、成る程赤字になるわけね。
兎角、依頼を十分にこなしている以上見事なものだけれど。

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Posted by フューネ・セプティノス 2017年02月01日(水) 21:10:41 返信

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